生田 博志 (Hiroshi Ikuta)



研究テーマ:酸化物超伝導体の基礎および応用


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[主な研究の概要]

 固体中に電気を流すと、普通は必ず抵抗が生じる。金属は一般に電気抵抗が小さいが、それでもゼロではない。ところが、温度を下げると、ある温度を境に電気抵抗が突然ゼロになる物質が存在する。これが、超伝導と呼ばれる現象である。従来、超伝導は極めて低い温度でしか実現されなかった。ところが、1986年以来、高温超伝導体と呼ばれる多くの新物質が発見され、現在では-140℃でも超伝導になる物質が知られている。もちろん、この温度は我々の日常感覚で言えば、まだかなりの低温である。しかし、理論上期待されていた超伝導出現の最高温度よりは、はるかに高い温度である。そのため、なぜこのように高い温度で超伝導になることが可能であるのか、万人が納得できる説明はまだなく、固体物理学上の大きな謎となっている。

 一方、超伝導体にはいろいろと有用な応用が考えられる。残念ながら今のところ、超伝導にするのには常に冷却する必要がある。それでも、医療機器、精密実験器具、高磁場発生用電磁石等の製品に応用されている。また、次世代高速鉄道の最有力候補とされるリニアモーターカーに搭載されているのは、周知の通りである。これらの機器に高温超伝導体が使えれば、冷却コストを大幅に削減でき、かつ扱いも容易になる。ただし、現実には単に超伝導になりさえすればいいというものではなく、応用に耐えうる特性を持たせるための、工夫が必要となる。

このように、高温超伝導の出現は、基礎学問上も、また工学応用の面からも多くの課題を提起したのである。そのいずれもが非常に重要であるし、お互いに密接に関係している。そこで、基礎から応用までの幅広い研究が必要であると考えている。現在は、主に以下の様なテーマに取り組んでいる。



  1. 低温比熱の測定により準粒子の状態密度を探り、高温超伝導体で出現している超伝導状態の対称性を調べている。特に、系のキャリアー量を変化させて、系統的な測定を行っている。
  2. 高温超伝導体は、常伝導状態での振る舞いも通常の金属とは異なる。これは、電子同士の相互作用が強いためとされている。そこで、この様な系一般に対する興味として、高温超伝導体と構造が似ている強相関物質の物性を調べている。
  3. 高温超伝導体の関連物質であるPrBa2Cu4O81次元性が極めて強い伝導体であり、1次元系で期待される電子状態との関連で興味深い。最近、この系の単結晶作成に成功しており、これを用いて詳細な物性測定を行っている。
  4. 超伝導体に磁場を印加した状態、いわゆる混合状態は従来の超伝導体とはかなり様相を異にしており、新しい種類の相転移の存在などが明らかになってきた。超伝導の本質を考える基礎的な問題として興味深いし、また、応用上も重要な問題である。そこで、混合状態の相図を系統的に明らかにするための研究をしている。
  5. 応用材料として、有望視される溶融バルク体の性能向上を目指している。これらの材料の特徴として特に面白いのは、非常に強い磁場を捕捉できることである。最近、永久磁石の10倍を越える高磁場を捕捉して擬似的な永久磁石として働く材料の開発に成功した。また、これらの材料の着磁過程を詳細に調べる研究も行っている。
  6. 金属の基板の上に、高温超伝導体の薄膜を形成する研究を行っている。特に、線材としての応用を念頭に、リボン状試料の作製を目指して、いくつかの手法で良質の薄膜を形成する研究に取り組んでいる。

 

[今後の展望]

 せっかくの大発見を実社会に役立てていくためには、高温超伝導体を正しく理解しなくてはならない。たとえば、磁場をかけたときの振る舞いは従来の超伝導体とはかなり様相を異にするが、これを正しく理解するための基礎研究が必要となる。また、基礎研究の積み重ねを、応用に耐えうる材料を生み出す基盤につなげて初めて、高温超伝導は真に工学的に有用になる。このような観点に立ち、今後も高温超伝導体の基礎および応用の両面を多肢にわたって研究していく必要があると考える。また、高温超伝導をきっかけとして注目されるようになった、強相関系等の周辺物質に研究を広げることによって、新たな進展が期待されると考えている。